たっ、たっ、たっ。と、まるで何かに憑かれたかの様に、熊野の山々を、行く当ても無く、駈け歩く一人の若者がおりました。 いつも、人の温かみを求めては、疎外感しか味わえなかった、都会での生活に、とうとう耐え切れなくなったのでしょうか。 本当の自分に向き合える世界が、きっとどこかにあるはずだという思いが、彼をして熊野へと旅立たせたのでしょうか。 山を越え、川を巡り、それでも奥深い熊野の山々。疲労と空腹で、意識も定かで無くなってきた若者が、突然、ふっと立ち止まり、 暮れゆく山並みをを、まるではじめて見たように、じーっと見つめ、そして目を閉じ、たたづんだその時、足下の地から体を貫くようにわきあがり、 心も体も満たしていき、包み込む、何かは知らぬ暖かさ。 若者は、この地に支えられて生きいることを思い、そしてそのいのちを精一杯燃やしているのは、決して一人、若者だけではないことを知りました。
前のページへ |
次のページへ |
メインメニューへ |