太古より那智の断崖に掛かるこの瀧に、古人は神を感じ、神として祀ったのです。見上げれば、天空より天下る白い飛沫をあげて落ちる瀧は、正しく人智で計ることのできない神そのものだったのです。
「身に積もる ことばの罪も あらわれて 心澄みぬる 三重ねの瀧」と和歌にも詠まれたように、この瀧の霊気にふれることにより、己の身も心も、清々しく感じることができるのです。
那智山中には、幾つかの谷が那智川に注ぎ、いくつもの瀧が掛かっています。一番東の流れを、大渓流(おおたにながれ)といい、一番下流に掛かる瀧を奈珂悟の瀧と言い、陰陽の瀧ともいいます。この瀧では、今でも修験の僧が、瀧に打たれ修行に勤める姿を目にすることができます。厳寒の薄氷の中を水面を揺らしながら修行する姿は、瀧の美しさの中に自然の厳しさ優しさを感じることができます。
新緑の初夏や紅葉の秋、切らずの森の遊歩道を下っていくと、やさしげな水音が聞こえはじめ、やがてなめらかな岩肌を三段に分かれて水が滑り落ちる滝壷が目の前に現れます。 体と心全体が清冽な雰囲気に溶けてしまうような瞬間です。
市の天然記念物に指定されている大馬神社社叢の中に、この滝があります。社叢は社後の高地と転石の多い狭い谷からなっていて、高地の部分は、スダジイを主とした常緑広葉樹木、谷の部分はスギの巨木、大木を主として、各種の常緑広葉樹を混交する森林で、地形からも湿度の高い局所気候に恵まれて、熊野地方が植林化される以前の暖地性植物の多い植性持つ場所として貴重なところです。
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